人物

音楽の巨匠

音楽の巨匠

イタリアの魂を表現する作曲家、エンニオ・モリコーネへのインタビュー

ニック・メイスン、ジェイスン・バーロー

偉大な作曲家エンニオ・モリコーネの作品をすべてリストアップするというのは容易なことではありません。映画とテレビに関係する楽曲だけでも、その数は500作品におよびます。どの作品にも、特定のシーンを彩ったり、さまざまな雰囲気を喚起したりする要素がぎっしりと詰まっています。さらに、彼のフィールドは、現代音楽、ポップ、FIFAワールドカップソング、編曲、そしてジャズの分野にまでおよびます。もしかすると、彼は音楽史上、最も多くの作品を世に送り出している作曲家かもしれません。

 

ニック・メイスン:ピンク・フロイドが、実は3本の映画のサウンドトラックを制作したというお話しから始めたいと思います…

エンニオ・モリコーネ:[微笑みながら]映画のために楽曲を提供することがあるというミュージシャンやソングライターというのは大勢います。しかし、私は映画音楽の作曲家です。両者の曲作りは全く異なります。とはいえ、あなたが映画のために作った音楽をないがしろにするつもりはありません。なぜなら、楽曲提供の依頼があったということは、監督がその映画を制作する中で、あなたの個性を求めたということだからです。

ニック・メイスン:制作の過程で監督とうまくいかないことがよくありましたか?

エンニオ・モリコーネ:仕事をしたほぼすべての監督とは、ぶつかることがしばしばありました。映画音楽の作曲家であれば珍しいことではありません。私は監督との打ち合わせが終わると、脚本の内容についてイメージを膨らませ、浮かんだアイデアを提案します。監督は、「いいですね」と言いながらも、きまって対案を提示してきます。その対案に大きなショックを受けて憤慨したこともありました。私の提案を根底から覆すような内容だったからです。しかし、こうした経験は、自分の仕事を理解するための良い訓練になりました。それからというもの、私は監督の提案の中に、いつも何かを見つけようと心掛けています。その何かとは、私だからできることかもしれませんし、自分自身では思いつかないようなことかもしれません。その何かによって、自分の個性を前面に押し出すことだってできるかもしれないのです。

ニックメイソンと会話するモリコーネ 
<em>写真:アレックス・レイク</em>
ニックメイソンと会話するモリコーネ  写真:アレックス・レイク

TOFM:ベルナルド・ベルトルッチはかつて、あなたの音楽は情景が目に浮かんでくると言いました。どうすればそのような音楽が作れるのですか?

エンニオ・モリコーネ:それはベルトルッチが言ったことなので、目に浮かぶかどうか私には分かりません。聴き方や感じ方は人それぞれです。音楽が果たす役割は、監督が伝えたいと思っている感情を増幅させるだけです。映画音楽というのは、常に映像と一体化することで成立するものなのです。

ニック・メイスン:映画音楽というのは、映像との一体化によって、曲の持っている魅力がいちだんと増大するように感じられます。

エンニオ・モリコーネ:私の映画音楽を聴いていただければ、曲に備わっている独自の自律性と個性を感じていただけることでしょう。しかし、映画を通して聴くと、映像と曲の間で一種の相互交流が生まれます。音楽は映像に何かを与え、映像は音楽に何かを与えます。しかし、私の音楽については、映像に頼らなくてもその魅力を味わっていただくことができます。

ーマ交響楽団で指揮するモリコーネ 
<em>写真:ゲッティ・イメージズ</em>
ーマ交響楽団で指揮するモリコーネ  写真:ゲッティ・イメージズ

TOFM:ピアノを使わず、机上で作曲されるということですが…

エンニオ・モリコーネ:それ自体は別に珍しいことではありません。偉大な作曲家達は、多くが机上で作曲をしています。曲調などを確かめるためにピアノを弾く必要があるとしたら、その作曲家はプロフェッショナルとは言えないでしょう。実力のある作曲家は紙に書いただけでも、曲調を正確に理解できます。内容を理解するために聴くことが必要となれば、やはり…。机上で作曲するというのは私に限ったことではなく、作曲家はみんな同じです。この点に関しては私が特別なわけではありません。

ニック・メイスン:最近は、コンピューターを使用する人も増えてきています。演奏した音楽を楽譜に落とすことができるようになっていますが、試されたことはありますか?

エンニオ・モリコーネ:楽譜はこれまで通り、紙に鉛筆で書くべきです。コンピューターの場合は、楽譜全体のほんの一部しか見ることができません。私にとって重要なのは、全体を俯瞰しながら考えられることです。最初に大枠を完成させてから、細部を作り込んでいきます。広いスペースの上で作業する方が、アイデアもたくさん浮かんでくるのです。ですから私の場合、コンピューターを使用することはありません。

ロンドンのO2アレーナに立つモリコーネ <em>写真:ゲッティ・イメージズ</em>
ロンドンのO2アレーナに立つモリコーネ 写真:ゲッティ・イメージズ

TOFM:フェラーリV12が奏でるフルスロットルのエンジン音をお聴きになったことがありますか?6気筒と12気筒のエンジンには倍音の特性があります。

エンニオ・モリコーネ:残念ながら、私には違いが分かりません。リズムは周期的な反復のことです。エンジンのサウンドに音色はありますが、それ自体にリズムはないと思います。

 

ニック・メイスン:いつか映画を監督されてみてはどうですか?

エンニオ・モリコーネ:かつて一度だけ依頼を受けたことがあります。しかし、監督をしたいとは思ったことはありません。

Ferrari