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生産ラインで活躍するトロリー

生産ラインで活躍するトロリー

高度な技術を採用するマラネッロのアッセンブリ・ラインでは、すべての車両が赤色のトロリーと一緒に進みます。個々のトロリーには指定の車両に組み込まれる各種のコンポーネントが積み込まれています。今回は、こうしたことを実現させている複雑なプランニングや高度なプログラムを紹介します。

Gordon Sorlini

「十分に進歩した技術というのは、どれも魔法と区別がつけづらいものです」。こう話すのは、20世紀を代表するSF作家の一人、アーサー・C・クラーク。「2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)」のような傑作や、 数々の短編ストーリーを世に送り出したことで知られている人物です。幸運にもフェラーリの未来的なアッセンブリ・ラインを目にすることができたとしたら、おそらく誰もが同様の感想を持つことでしょう。各車両がラインに沿って自動的かつ静かに移動する中、それぞれの作業をどれだけの時間で完了させなければならないのかを大型のデジタル時計が作業者に知らせます。その様子は、ここが工場であることをまったく感じさせません。ましてや高性能なスポーツカーを製造している場所であると察知するなどは、なおさら困難です。
 
そうした場所において、あるものが目に留まります。生産ラインに沿って各車両と一緒に進んでいる、シンプルな形状をした赤いトロリーのようなものです。実は、これらのメタル製モバイル・キャビネットがなければ、どのフェラーリ・モデルも組み立てることができません。それぞれのキャビネットには、ケーブルとワイヤー、ボルトとナット、ステアリング・ホイール、ルーム・ミラー、ダッシュボード・バーツなど、ライン上で1台の車両を組み立てるのに必要な部品が積み込まれているからです(バンパー、シート、折り畳み式ルーフなど、大型のコンポーネントは別に運ばれます)。トロリーの準備(トロリーに対する部品の積み込み、およびトロリーをアッセンブリ・ラインに投入する方法)においては、ロジスティクスの緻密さに驚かされます。

すべては、お客様がディーラーで車両を注文したときに始まります。オーダーは確認作業が済むとマラネッロに送られます。この段階でアッセンブリ・スロットが決定し、フェラーリのオフサイト倉庫に資材が到着するよう、サプライヤーへの発注が開始されます。この倉庫ではアッセンブリ・ラインに送られるトロリーが準備され、どの車両のパートナーになるのかが決定されます。

マラネッロの2本のアッセンブリ・ライン(1本はV12モデル用で、もう1本はV8モデル用)で組み立てられる車両は、それぞれがほぼ独自の仕様であり、カラーやオプション装備が異なります。それでもすべての車両は同一のライン上をスムーズに進んでいきます。テーラーメイド・モデルが含まれていてもそれは変わりません。488 Pistaの後ろにPortofinoやPista Spiderが相次いで流れてくるといった状態が続いても、それぞれの車両は専用のトロリーを従えてライン上を順調に進んで行くのです。ライン上にある1台の車両には、モデルの種類やオプションの内容によって異なるものの、トロリー約10~15台分のコンポーネントが必要になります。

トロリーの準備は、ロジスティクスの緻密さの妙技です:各トロリーには独自仕様の車両を組み立てるためのパーツが積み込まれています。 写真:アンドレア・メルカンジ
トロリーの準備は、ロジスティクスの緻密さの妙技です:各トロリーには独自仕様の車両を組み立てるためのパーツが積み込まれています。 写真:アンドレア・メルカンジ

個々のトロリーが空の状態になる前には、車両の生産が滞りなく行えるよう、必要なキットをすべて搭載する新しいトロリーがすでに準備されていて、適切なワークステーションで投入されます。「魔法」を用いているかのようで、そのタイミングは絶妙です。こうして新たな「日付」が決定されます。

そして、背後では、トロリーの準備が次々に進められていきます。つまり、サプライヤーに注文を送ると、倉庫にコンポーネントが納品され、個々に内容が異なる車両のアッセンブリ・キットを準備するよう作業者に対して指示が出されるのです。車両がアッセンブリ・ライン上を動き始める前日、必要なコンポーネントを集めたキットは倉庫に納品されます。そして車両の生産が始まる5時間前に最初のトロリーに対する積み込みが行われると、そのトロリーは生産ラインに送られます。

空になったトロリーと中身の詰まったトロリーを交換するため、倉庫とアッセンブリ・ラインの間を専用のトラックが一日に何度も往復します。一日に往復するトロリーの数は約550台にのぼります。一連のプロセスは魔法のように見えるかもしれませんが、もちろんそんなはずはありません。しかし、フェラーリの新車がマラネッロのゲートから威勢よく出てくるのを見かける機会があったならば、ぜひあの複雑で精緻なアッセンブリ・プロセスのことを思い出してみてください。夢の車を次々に生み出している生産ラインのことです。そして、謙虚に本来の役割を果たしていたメタル製のトロリーのことも。

 

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