情熱

色

特定の色調が差別化という点でどのような役割を果たしてきたのか?一流のグラフィックデザイナーがその答えに迫ります。

Riccardo Falcinelli

エンツォ・フェラーリは、どの子供も車の絵を描くように言われたとき、必ず赤色で描くものだと言いました。確かに、フェラーリのレッドは、その色自体がメンタル・モデルとなりました。赤という色をイメージさせる一つの手段と言っても過言ではありません。もちろん、マセラティもアルファ ロメオも赤のカラーリングを採用してきましたが、いずれも文化的シンボルとしてのステータスを獲得するには至っていません。全体のイメージと強く結び付いた色調とはいったい何なのでしょうか?なぜフェラーリ・レッドは存在するのに、メルセデス・グレーは存在しないのでしょう?現代では、色が差別化の手段になります。コカコーラはレッドで、ペプシコーラはブルーです。

色は、思考や価値観の体系と一体化します。数年前、米国の市場調査会社が、調査を目的として会社員らに黄色と緑色の2種類の色鉛筆を渡しました。1週間後、ほとんどの調査対象者が使い易いと判断したのは黄色の色鉛筆の方でした。緑色の鉛筆は削りにくく、芯がすぐに割れてしまうというのです。しかし、双方の色鉛筆に違いはありませんでした。実際、150年間にわたって最も多く売れた鉛筆は黄色のものでした。黄色が人気のモデルになっていたのです。

32.22カラットのビルマサファイアの濃厚な色合いとマッチする、「ブルー・コルサ」色の488 Spider
32.22カラットのビルマサファイアの濃厚な色合いとマッチする、「ブルー・コルサ」色の488 Spider

多くの場合、色は思考や期待を決定づけます。ある特定の色がその色をまとった対象物と同義になると、他の色で覆われたその対象物を想像することは難しくなります。私たちの心の中では、緑色の鉛筆よりも削りやすいと信じ込んでしまうほど、黄色の鉛筆が他の色鉛筆よりも優れたものになっているのです。時には、単純にどちらが時間的に先であったか、ということで思考が決まってしまうこともあります。1998年にアップルが初めて発表したiMacはアバンギャルドなデザインを特徴とした製品であり、透明で明るい色も斬新でした。iMacは、ハード・ストーン、ブリリアント・マンダリン、エナメル・グリーンなど、 人工的な色調を多数取り揃えていることで知られていました。

アップルがシドニーのボンダイ・ビーチに因んで名付けた「ボンダイ・ブルー」もその一つです。他社がこれに追従して、カラーのコンピュータを販売し始めると、アップルは再び注目を浴びるため、 オールホワイト、ブラック、シルバーといったシンプルなカラーリングにフォーカスしました。これと同じようなこととして、1845年、ニューヨークの著名な宝石商であったチャールズ・ルイス・ティファニーは、カタログの表紙にターコイズの色調を選びました。その瞬間から、ターコイズの色調は彼のブランドを象徴するものとなったのです。

この色は、アメリカのクロウタドリが産む卵の色ですが、ターコイズが埋め込まれたブローチを花嫁が女中に贈るというビクトリア朝時代の習慣を想起させました。さらに、自動車の分野でも同様のことが起こっています。ほぼ1世紀にわたり、赤色は、スピードへのこだわりとモータースポーツに対する誇りを意味する色とされてきました。

壮大な4.22カラットのロゼンジカット・エメラルドと組み合わせた「ヴェルデ・アベトーネ」のエレガントなFerrari 330 GT
壮大な4.22カラットのロゼンジカット・エメラルドと組み合わせた「ヴェルデ・アベトーネ」のエレガントなFerrari 330 GT

1920年代には、「ロッソ・コルサ」が公式レースにおけるイタリア車のカラーとして規定されています。スポーツのシーンでは容易に識別できることが求められるため、当時のレースにおけるルールでは、フランスのチームにブルー、ドイツにホワイト、イギリスにグリーン、そしてベルギーのチームにイエローが割り当てられました。 赤色はひと際目立つカラーであり、独自の存在感を放つことから、遠くからでもよく見えました。人々が日常生活で赤色を避ける傾向にあるのは、こうしたことが理由なのかも知れません。都市の生活環境で赤色のドレスを見かけることは非常に稀です。

よって、「ある色が他の色よりも効果的であるのか」を考えるとき、私たちは考え方を逆転させる必要があります。フェラーリ・レッドは、他のレーサーの色調よりも優れていたから成功を収めたのではありません。むしろ逆で、長年にわたってレースで成功を収めてきたからこそ、赤色が特定の意味、すなわち一連の価値をもたらすようになったのです。

多くの成功したブランドについても同じことが言えます。ブラックを使うブランドは多数存在しますが、シャネルのブラックは唯一無二です。ターコイズを使うブランドは多数存在しますが、ティファニーのターコイズは唯一無二なのです。巧みなマーケティング戦略でも正しい色を選ぶことはできません。事実は逆であり、成功を継続させることによって、その色に各種の価値が関連付けられるのです。

 

All precious stones images are supplied by Graff

 

 

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