車輌

写真: Christopher Lim

フェラーリP80/C、歴史に残るワンオフ

マラネロのスペシャルプロジェクト・プログラムが生み出した最新の傑作は、60年代に誕生した栄光のスポーツプロトタイプを想起させます。

Jason Barlow

新型のフェラーリを所有できるということは、幸運な人々のみが叶えられる夢です。しかし、自動車の世界においては、そうしたごく限られた人たちが構成する階層の中にも、さらに幸運な数少ない人々のための特別なレベルというものが存在します。このような幸運な人々は、フェラーリのスペシャルプロジェクト(SP)によって、自分だけのフェラーリを創出し、それを所有する機会に恵まれます。2008年、平松潤一郎氏のSP1が新時代の扉を開き、 複数のモデルがそれに続きました。しかし、最新作であるP80/Cは、フェラーリのレーシング・マシンである488 GT3をベースにしたことで、SPプログラムを新たな領域に引き上げました。

ここで特に重要なのは、オンロード・モデルの制約から一切解放され、さらなる極みを追求できるようになったことです。ヘッドランプを省略することができたものその一例です。488 GT3のシャシーをベースとしたP80/Cは、ホイールベースが標準仕様の488よりも50mm長いうえに徹底的な軽量化が施されていて、ボディ内部の戦闘態勢も整っています。

車両が完成するまでに4年の時間を要します。 左:取り外し可能なリア・スポイラー; 右:有名なフロント・フェンダー 写真: Christopher Lim
車両が完成するまでに4年の時間を要します。 左:取り外し可能なリア・スポイラー; 右:有名なフロント・フェンダー 写真: Christopher Lim

これにより、フェラーリのチェントロ・スティーレは、この車両のプロポーションを大胆にデザインすることができたため、見る人を魅了するアグレッシブなルックスをリヤに与えました。真後ろから見ると、カーボンファイバー製の巨大なウイングが全体を支配する要素となっていますが、最高出力580PSを生み出す3.9リッターV8ツインターボエンジンの迫力あるビジュアルも圧巻です。
しかし、見た目だけの車両ではありません。

P80/Cは、効率性に優れたモデルであることをサーキットにおいて証明しています。リヤディフューザーの構成パーツはGT3と共通であるものの、フロントスプリッターとすべての外板は専用設計されたものです。上辺だけのものとなりかねなかったワンオフのプロジェクトも、このように空力性能に磨きをかけるほど驚異的な変化を遂げました。P80/Cは、まさに唯一無二の存在であり、車両開発にオーナーが関与していることを証明するものです。

リアスポイラーはテールライトを組み込んでいるいっぽう、グリルがエンジンベイから熱を逃がします。 写真: Christopher Lim
リアスポイラーはテールライトを組み込んでいるいっぽう、グリルがエンジンベイから熱を逃がします。 写真: Christopher Lim

「フェラーリのプロジェクトは、常に夢を発端としています」と話すのは、デザイン・ディレクターを務めるフラヴィオ・マンゾーニです。さらに彼は、「同時に現実とも折り合いを付けなければなりません。このプロジェクトは、60年代のスポーツプロトタイプに備わっていたスピリットとパワーを呼び起こすための手段でした」と続けています。この車両をオーダーした香港の企業家TK Mak氏は次のように述べています。「多くのフェラーリストと同じように、私も若い頃から60年代と70年代の『スポーツプロトタイプ』に魅了されてきました。

当時は試行錯誤の時代であって、コンピュータを使用せずにデザインをする世の中でした。そうした中でエンジニアたちは、イマジネーションと体験を繰り返して、精神的に追い込まれながら1/100秒を削ろうとしていたのです」。「P80/Cに関しては、美とパフォーマンスが共存した当時を再現することが当初からの目標でした。美学とエンジニアリングが融合したかつての時代を再現しようとしたのです」。この企業家は、未来のGTプロトタイプに関する自身のビジョンをP80/Cに投影したいと考えました。「フェラーリは私の心に根付いているブランドであって、そんなフェラーリの未来のデザイン言語を私なりに解釈しました」と、彼は話します。

P80/C 細部: ラップアラウンドフロントガラスの下にあるフェラーリバッジ; アルミ製エンジンリッド・ルーバー 写真: Christopher Lim
P80/C 細部: ラップアラウンドフロントガラスの下にあるフェラーリバッジ; アルミ製エンジンリッド・ルーバー 写真: Christopher Lim

クライアントとチェントロ・スティーレとの間の内部的な事柄は秘密にされていますが、TK氏はベールの奥を少しだけ語ってくれました。「私たちは、プロジェクトを開始して最初のデザイン案を作成する前に、両者が本気で協力し合ってプロジェクトに取り組むという姿勢を確認しなければなりませんでした。そして、両者が目と目を見つめ合ってこの車のビジョンを検討した際に、私は、彼らがこの車に命を吹き込むことに対して私たちと同じくらい情熱を注いでいるということを確かめました。このプロジェクトは、お互いへの尊敬の念に基づいて成り立ったものだと言えます。結局、スケッチの段階から車両が完成するまでに4年以上の時間を要しました」。

このP80/Cは、1967年にモンツァでデビューしたP4、1965年のル・マン24時間で優勝した250 LMおよびDino 2016 Sなど、複数のモデルからデザインのインスピレーションを受けています。「半世紀を経た今でも、ほとんどの人は、[P4が]過去最高レベルの美しさを誇るレースカーであることに異論を唱えないでしょう。まさに「存在感」だけで感動を与えるモデルです。今でも、そのサウンドを耳にし、走る姿を見た人々は、1967年当時の人々と同じくらいに感情を揺さぶられます。自動車に限らず、時が経ても色褪せないものは多くありません」と、TK氏は自身の考えを述べています。彼のP80/Cは、その例外に含まれたことが明らかであると言えるでしょう。

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